意味
功業は成就しがたく失敗しやすいものであり、機会は得がたく失いやすいものである。
三省堂「366日の中国名句辞典」
参考
斉を制圧した韓信に遊説家蒯通が、劉邦の漢に背くチャンスは今しかないと、解いたときのことば。
三省堂「366日の中国名句辞典」
原文/出典
功者難成而易敗、時者難得而易失也。
『史記』淮陰侯列伝
記事の着想
今回の記事も三省堂「366日の中国名句辞典」から着想を得た。
1月1日には「巧言令色、鮮きかな仁」が紹介されていた。
実は昨日・一昨日と続けて「366日の中国名句辞典」以外の着想から投稿した。
ではこの2日間、どんな名句が紹介されていたか。
1月2日
口は是禍の門、舌は是身を斬る刀
『古今事文類聚』後集十九・口
1月3日
倉廩実ちて則ち礼節を知り、衣食足りて則ち栄辱を知る
『管子』牧民
いや、これは抜かったなぁ、というのが率直な反省。
まず1月2日の「口は是禍の門、舌は是身を斬る刀」これは口の軽い私にとっては間違いなく座右の銘にせねばならない重要な戒めであって、是非投稿すべきだった。
次に1月3日の「倉廩実ちて則ち礼節を知り、衣食足りて則ち栄辱を知る」はヒネリのある案件で、是非ともイジってみたかった。何がヒネているかというと、この成句、どういうわけか日本に伝わってからは
衣食足りて礼節を知る
と勝手に短縮されちゃってる辺りが興味深い成句なのであった。
論理構造として
- 倉廩実≒資産の備蓄が整う
- 礼節≒民に公徳を説けるようになる
- 衣食足≒蓄えられた資産が人々に行き渡る
- 栄辱≒誇りや恥じの心が民に芽生える
という具合に、ちゃんとトリクルダウン式に富が分配されるに従って、公徳もまた浸透する、という対比が描かれている。
にもかかわらず、それを「衣食足りて礼節を知る」と縮めて人口に膾炙させてしまうあたり、これを受容したことの日本の読書人たちに教養が不足していたか、あるいは為政者に徳性が欠けていたか。果たしてどのくらいの時期に、初めて「日本流」の短縮形が記録されたか、を踏み込んでテクストクリティークしてみたかったところ。
ともあれ、悔やんでいても仕方ないので、この2句に関しては来年以降、また機会があれば取り扱ってみたい。
類句を挙げて、違いを味わう
少年老い易く、学成り難し/一寸の光陰、軽んずべからず
朱熹「遇成」
比較
句 | 要約 | 文意 | メッセージの宛先 |
功は成り難く敗れ易し 時は得難く失い易きなり | 好機を逃すな | 千載一遇の決断を迫る | 力量はあるが優柔不断な指導者 |
少年老い易く、学成り難し 一寸の光陰、軽んずべからず | 寸暇を惜しめ | 一秒一秒の蓄積を説く | まだ若く前途のある学徒 |
両方とも、つい「いつやるの?今でしょ!」みたいな軽薄な感じで漠然と読解してしまいがちだ。
確かに「今、是非とも、なされよ」と迫っているという点では似ているかもしれない。しかし、上の表のとおり、使うべき場面は全く異なることがわかる。油断して使い方を間違えてしまわぬよう、心したい。
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